ひょんなことから日本料理店を開業することになり、2017年5月、アルバニアの田舎町シュコドラで初めてとなる日本料理店「Sushi te Shoki」をオープン。地元アルバニア人を相手に日々奮闘している。ちなみにまだ世界一周の途中。
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まいど!世界に日本料理を伝える開業シェフトリップラーのshokiです!
せーの、ホップ、ステップ、トリップ、(みんなで)ラー!!
さて、これを書いている現在、僕はアルバニアで日本料理店を営んでいる訳ですが、ここアルバニアへたどり着くまでには、20数ヶ国をバックパッカーとして旅していました。そんな旅の中では、やはり色んな事件やトラブルもありました。
今回は、その中でもショックが大き過ぎて、話せば長くなるので(書くのが面倒なので)、僕の個人ブログにも一切書かなかった、「スリランカで遭った巧妙な盗難事件」の話をしたいと思います。
少し長くなりますが、旅好きの方は是非最後まで読んでいただき、こんな馬鹿なバックパッカーの真似は絶対にしないと誓ってください。僕自身、あなたの反面教師になれれば幸いかと存じます。
この記事の目次
運命を変える出会い
日本人女性との出会い
あの時のことを思い出すと、今でも焦燥感に駆られる。
きっと僕はもう・・・あの町へは一生行かないだろう。
今からちょうど2年ほど前。当時僕はインドビザを得るために、スリランカのキャンディーという町に来ていた。暦の上では12月だが、年間を通しても20度~30度くらいまでしか温度変化がないのがスリランカ。
この日も、半そでサンダル姿でビザの申請にやってきたところだ。
大通り沿いの歩道から階段を5段ほど降りたところにあるその事務所で、アキとは出会った。ちょうどアキもインドビザの申請に来ていて、必要書類と一緒にパスポートを手に持って順番を待っていたので、すぐに日本人だとわかったのだ。
申請からビザの受け取りまで、約1週間かかるとのことで、僕は暇を持て余していた。
アキとは初対面でも話しやすく、明るい女の子で、すぐに意気投合した。
ちょうど時刻もお昼過ぎだったので、一緒に昼食を食べに行くことになった。
食後は町の中心にあるキャンディー湖の畔のベンチに座り、スリランカ名物のヨーグルト「キリパニー」を食べながら、これまでの旅の話や、今後の旅の話なんかをたしなんだ。
背後から近づく悪魔がいるとも知らずに・・・。
スリランカ人家族との出会い
アキと話し込んでいると、現地のスリランカ人男性に声を掛けられた。
海外だとよくあることなので、僕はいつも適当に話してその場で別れるのだが、その時はそうもいかず・・・。
男はメッドと名乗った。フレンドリーなのはもちろん、会話のすごくうまい奴だった。彼は、現地のツアーやレンタカーを取り扱うエージェント。スリランカでは観光をする予定の無い僕たちだったが、僕もアキも暇を持て余していたので、メッドの話に付き合っていた。
時間も忘れるくらい話し込んだ頃、メッドが僕たちの泊まる宿のことを聞いてきた。僕とアキはその時、別々の安宿に滞在していたのだが、アキの滞在する方の宿は、彼女いわくあまり良くなく、宿を変えようかと考えているという話をした。するとメッドがこんなことを提案してきたのだ。
実は僕はたまに、自宅でホームステイの受け入れもやっているんだ。それなら二人一緒に家に泊まりにおいでよ
結局、僕は滞在中の宿は気に入っていたし、それ以前に翌日はアキとは別の友人とそこで合流することになっていたので、継続して宿泊することにして、アキのみ、メッドの自宅へホームステイすることになった。
じゃあこれから一緒に車でアキの宿へ荷物を取りに行って、自宅へ向かおう!しょうきも泊まらなくていいから一緒にどう?
旅中は常々現地の人々の暮らしを見てみたい、と思っている僕にとって、自宅への招待はこの上ない良い機会だった。スリランカは、インドビザ申請が無ければ来ていなかったけど、いい出会いもあるもんだ!
メッドの自宅に着くと、彼の家族や友人たちが出迎えてくれ、一緒に食事をご馳走になった。現地の人々と一緒に、現地の食事を楽しみ、しかも英語も通じるから会話ができる。なんて最高なんだ!これぞまさに旅の醍醐味!このときは正に、なにもかもが順調なスリランカ旅だった。
ところで何で君たちは観光に興味が無いんだ?せっかくスリランカにいるのに、もったいなくないのか?
いや、僕たちはただ、現地の人々と関わっていられれば、それでいいんだよ
そうか。だったら、サファリに一緒に行かないか?
メッドの話では、キャンディーから北へ3-4時間車で走ったところに知り合いが住んでいて、彼らの家に4泊ほどしながら周辺の散策や、狩猟までできるツアーを時々主催しているとのことだった。
以前に日本人旅行者もそのツアーに参加したことがあるそうで、その時の写真を見せてくれる。タブレットの画面には日本人男性と、狩猟して得たらしきウサギが写っていた。
予想を超えるメッドの提案に、僕たちはすっかり高揚してしまった。こんなチャンス、これを逃すと二度とないかもしれない・・・。
こうしてこの2日後、僕の友人リオを含めた日本人バックパッカー3名は、メッドのツアーに参加することとなった。
「僕たちはただ、現地の人々と関わっていられれば、それでいいんだよ」
今思えば、この言葉があの悪夢の引き金になったのかもしれない・・・。
絶望のサファリツアー
情緒不安定な妻ラリカ
サファリツアーへ同行したメンバーを紹介しておく(全員仮名)。
メッド(僕たちにサファリツアーを提案してきた人物)
ラリカ(メッドの妻、情緒不安定なときが頻繁にある)
メッド&ラリカの子ども2人(まだ幼い)
デカ男(メッドの親友)
デカ乳(デカ男の彼女)
アキ(日本人の女の子。僕とスリランカで出会う)
リオ(日本人の女の子。僕が他国で出会った友人)
そして僕(しょうき)。このメンバーでサファリツアーへ行く。
出発の日、メンバー全員がメッドの自宅に集合していた。
旅行出発前というのは、万国共通でなにかハプニングがあるらしく、メッドとラリカがなにやらただならぬ雰囲気。現地語でなにを怒鳴り合っているのかはわからないが、どうやらラリカは「ツアーへは行かない」と言っていて、それを聞いた娘が「じゃあ私も行かない」と泣きじゃくっていた。
僕たちはどうすることも出来ず、ただ家の玄関付近で立ち尽くし、様子を伺うのみだった。しばらくすると喧嘩はおさまったらしく、ラリカも娘もツアーへ行くことになった。
先行き不安すぎる出発。車は2台に分かれて現地へと向かう。
Wel coMe
サファリツアー現地に到着した。この家に住んでいる家族とメッドが友人らしく、今回はお世辞にも綺麗とは言えないこの家に、全員で4泊させてもらう。
メッドはまだ30歳前後らしいのだが、この家のご主人は見た目50歳前後といったところ。ご主人は片足が不自由で、松葉杖をつかって歩く。ご主人の他には、奥さんと、近所の子どもが何人も出入りしていたので、どの子が彼らの子どもなのか、はたまた全員他人の子なのかはよくわからない。他にも、近所に住む親戚や友人も、僕たちを見物に来たのか、大勢で歓迎してくれた。
簡単に挨拶を済ませると、日が暮れる前に近所の湖でBBQをしに行こう、ということで、足早にその家をあとにした。
ふとその家を見ると、外壁に書かれた「Wel coMe」の文字が、不気味に歪んでいた・・・。
夜のサファリウォーク
待ちに待ったサファリツアー本番!
サファリが行われるのは夜中、ということで、夕食を済ませたあと10時頃、家を出発した。メッド、現地人のハンター兼案内人を務めるハル、そして僕たち日本人3人で歩いて行う。
貴重品やバッグは邪魔になるので、全てその家に置いておくように、指示されていた。
この家の人は大丈夫だ
獲物が逃げるので、会話、スマホの使用は厳禁だった。
ハルが先頭を歩き、その数十メートル後ろから、僕たち4人がコソコソとついて歩く。猟銃はハルしか持っておらず、他の4人は懐中電灯のみ持っているのだが、基本的には使用しない。
時折ハルが獲物に気がづくと、ハッっと手を挙げて合図をし、僕たちの動きを停止さる。辺りは暗く、距離も少し離れているので、あまりよく見えないのだが、ハルが銃を構えて、時々銃声が聞こえる。
そんなことが何度かあった。小雨が降っていたこともあって、スマホも家に置いてきたので、ずっと時間もわからないまま歩き続け・・・結局この日は収穫なし。
家に辿り着いたのは夜中の2時だった。
湖畔で消えたスマホと現金
その家から車で10分ほど舗装されていない道を走ると、昨日BBQをした湖の畔に出る。
この日もその湖へ泳ぎにみんなで出かけることになった。車を砂利道のわきに停めて、みんなで力を合わせて、BBQの機材などを、5分ほど歩いた沿岸まで運ぶ。
このときも雨が降りそうな雲行きだったので、メッドが僕たち3人に荷物は全部車に置いておくよう指示を下していた。
沿岸では、みんなで泳いだり、ボートに乗ったり、一通り楽しんだあと、BBQの準備に取り掛かった。
昨夜サファリへ同行したハルが尋ねる。
しょうき、ライターは持っているか?
いや、車の中にならあるけど
こう答えると、じゃあ取ってきてくれ、とメッドに車の鍵を渡され、ライターを取りに行くことになった。
このときはもう晴れ間が差していたので、僕は自分の荷物一式を沿岸まで持ち帰った。
アキもこのとき僕と一緒に車へ行き、彼女はカメラのみを沿岸に持ち帰り、残りの荷物は車の中に置いていた。ちなみにリオは荷物は全て家に置いてきていたので、車内にリオの荷物はない。
つまり、このあと車の中にあった日本人の荷物は、アキのバッグのみ、だった。
BBQを楽しみながら、僕が趣味のオカリナを吹き始めると、ハルが太鼓を叩き、友人のおじさんが歌を歌い、大いに盛り上がった。
異変に気づいたのは、家に帰ってからだった。
アキがなにやら焦った表情を浮かべているので、どうしたのかと尋ねてみると、嫌な一言が返ってきたのだ。
・・・スマホが、どこにも見当たらないの
よくよく荷物をチェックしてみると、アキの財布からは現金もいくらか無くなっているそうだ。早速メッドに相談すると、一緒に警察へ行くことになった。
被害届とポリスレポートを出してもらうために・・・。
だがこのとき、僕たち日本人3人はあろうことか、メッドのことを信頼し過ぎていて、キャンディーの彼の自宅にパスポートを置いてきてしまったのだった。これが最悪だった。案の定、警察へ行ってもなにもしてもらえないのだった。
仕方がないので一旦、家路に着こうとしたそのとき、メッドに妙案が浮かんだのだった・・・。
地域で有名な占い師によると…。
この地域で有名な占い師に、スマホの在り処を占ってもらおう
・・・え!?
このご時世に何を言っているのか、理解に苦しんだが、パスポートが無い以上動いてくれそうも無い警察に頼るよりは、現地の慣わしに従った方がいいのかも知れない。
正直僕は興奮気味だった。昔から占いは信じていないし、興味も特にはないが、まさかこんなカタチで頼ることになろうとは思ってもみなかったから。しかもそれが現地の風習なら、なおさら貴重な機会になるかもしれない。
ラリカも占ってもらいたい事があるらしく、結局子どもたちも含めてみんなで占い師の館へ行くことになった。
森に囲まれた白い一軒家。まさに理想通りの占い師の館だ。
中には、関係者以外立ち入り禁止だったので、アキ、メッド、そしてハルの3人のみが入室。残された僕たちは、まだかまだかと建物の前で待ち続けた。窓の向こう側にあるカーテンにうつった影で、メッドが通訳をしているのがわかった。
館から出てきたメッドは自信ありげにこう言った。
スマホの在り処がわかったぞ!
・・・え!!?
面白くなってきた!(アキ、ごめん)
メッドの通訳によれば、3人組の若い男にスマホと現金は盗まれたらしい。
3人組の若い男には心当たりがあった。
そういえば、僕たち全員が湖の沿岸でBBQなどをしながら楽しんでいたとき、なぜかバリカンを持った3人組の若い男が話しかけてきていたのだ。
現地語で何を言っているのか理解は出来なかったけど、メッドやハルたちと少し話したあと、どこかへ消えていった。
道路からも離れていて、僕たち以外ひと気の無いあの場所に突然現れた彼らは、印象に残っていた。そして何より、どことなく妙な3人組だった。
ハルは現地民。隣の家も見えないようなド田舎なので、この村の住民はみんな知り合いらしい。無論、その3人組の家も、ハルは知っているのだ。
じゃあ早速そいつらの家へ行こうぜ!!
そういう空気だったのですが、ラリカ、そしてデカ男とデカ乳カップルが代わる代わる占いの館へ入って行く。
これには流石のメッドも口を挟めないらしく、思いもしなかった場面で、このご時世、旦那が奥様に逆らえないのはスリランカも日本も似たようなものなんだ、と再認識させられるのだった。
ハルの案内で、メッド、現地人の松葉杖のおじさん、アキ、リオ、そして僕の6人で、占い師が言う3人組のうち1人(らしき人物)の自宅へ到着した。
あまり大人数でズカズカと訪れるのはあまりよくないとのことで、ハルとメッドのみが車を降りて話しに行き、残りの僕らは車内からその様子をのぞき込むような格好になった。
家の中からは女性が1人出てきてなにやら話している。きっと犯人と思われる男の家族だ。たとえ彼らの声が聞こえていたとしても、現地語がほとんど理解できないので、むしろ車内から彼女の顔や様子を観察できてよかった。彼女は終始、真面目な面持ちではあったが、なにか心当たりはあるのだろうか・・・。
5分ほど経った頃、ふたりがこちらに戻ってきて車を発車させた。帰りの道中、メッドが状況を報告してくれた。
さっきの女性は、犯人と思われる男の姉。彼女いわく、彼がいまどこにいるのかも、いつ帰ってくるのかも定かでないらしい。
なんだよ、雲隠れかよ。
その後も、二度、三度と足を運んだが、直接本人には会えず終い。
最終的にはハルやメッドが、彼ら家族に刺激を与えすぎていて、逆にこっちが訴えられかねないので、もう手を引こうという話になった。なんという理不尽。せっかくのサファリツアーが台無しだ。そのことを誰よりも感じていたアキは、目に涙をいっぱいに浮かべながらこう言った。
もういいから、これ以上なにも起こらないことを願って、無事にキャンディまで帰ろう
事件再び
サファリツアー最終日の夜、現地の家周辺に、異常なわめき声が響いた。
ラリカがデカ乳に向かってほうきを振り回し、デカ乳の二の腕からは出血していた。デカ乳もそれに応戦する構えらしく、ラリカよりも大きな体で立ち向かう。メッドもその喧嘩の関係者らしく、ラリカをかばいつつデカ乳を怒鳴りつけ、それにも負けずに立ち向かうデカ乳を、デカ男が必死に止めていた。
喧嘩の原因は十中八九、メッドの浮気だ。あとで、メッドの浮気相手をデカ乳が紹介しただの云々を聞いた。正直、今の僕たちにしては、どうでもいい話でしかない。
なぜなら僕たちの頭の中は“無事にキャンディーまで帰る”ということだけだったから。
周りにいたスリランカ人の大人たちは全員、家の中へ入って行き、子どもたちそっちのけで話し合いが進められていた。
メッドたちの子ども二人の他にも、近所の小学低学年くらいの子どもたちが5-6人遊びに来ていたのにこの事態。子どもたちは、大人たちから庭で遊んでいなさいと言われていたが、さすがに異様な空気を感じていた様で、あまり元気がなかった。
ラリカは僕ら他人の前でも、よく情緒不安定に陥っていた。なにもこのときだけじゃない。旦那の浮気を考えれば無理のないことなのかもしれない。でも、子どもたちに罪はないじゃないか!
僕も、このときばかりは色んな不安に押しつぶされそうになっていたので、それを誤魔化したかった。だから子どもたちと必死に遊んだ。鬼ごっこをして、かくれんぼをして、縄跳びをして、7-8人の子どもを抱きかかえて走り回った。
アキも精神的に辛そうだった。そんなアキにはリオが寄り添ってあげていた。この二人にもこの状況に負けて欲しくなかったから、僕はあほみたいに子どもたちと遊んだ。少しでもみんなが元気になりますようにと・・・。
気がつくと、家の外で立ち話をしていたアキとリオが居なくなっていた。きっと、ふたりだけでこっそり物陰に隠れて話しているんだろう。そう思っていたけれど、実はこのとき事件は起こっていた・・・。
僕が、かくれんぼで車の陰に隠れていたとき、アキとリオが神妙な面持ちで僕の前に現れた。
しょうきさん、助けて・・・
アキからのSOSだった。
そのまま車の陰に隠れながら二人の話を聞く。
実はさっき、私たちの部屋にラリカが入ってきて、ふたりきりになっちゃったの・・・。
僕たちは全員、明日キャンディーへ帰る予定だったが、ラリカは先ほどの喧嘩をまだ引きずっていて、メッドたちと一緒には帰らないつもりらしい。それで、アキを道連れにしようと部屋まできたというのだ。当然断るアキに対してラリカは殴りかかり、こう言ったそうだ。
あんたの大事なもの、全部ここにあることはわかってるんだから!
ラリカは気が狂っている。
怖くなったアキは、ラリカがトイレに立った隙を見計らって部屋から脱出。しかしラリカは僕たち日本人の荷物が置いてある部屋に戻り、ひとりでしばらくいたと言う。
僕たちと同じ様に、ラリカにもうまくいかないことが続いているらしい。でもそれは僕たちには関係ないじゃないか。
とにかくリオと僕は、アキを慰めるので精一杯で、再度、とにかく明日の夜にはキャンディーだから、と言い、励まし合った。
そして翌朝、さらに僕たちを苦しめる事態が起きる。
アキがまた、なにやら焦っていた。
クレジットカードが、無い
意外な犯人!?
サファリツアー二日目に、スマホと現金を盗難に遭ったアキが、次はクレジットカードを盗まれた。
状況を整理すると、犯人は明らかだった。昨夜部屋に押し入り、言うことをきかなかったアキに殴りかかり、その後、その部屋にひとりでしばらくいたラリカだ。
これは本当に厄介なことになった。こんなことを話せるのは、ツアーに僕たちをつれてきて、英語が話せるメッドしかいないのだ。しかしメッドは、ラリカの夫。さすがにかばうだろう。
それでもやられっぱなしは嫌なので、一縷の望みにかけて、メッドに相談することにした。
昨夜からの一連の流れを話すと、メッドは意味深にこう言った。
心配するな。カードは必ず見つけ出す。そしたらみんなで湖へ最後に遊びに行ってから、キャンディーへ帰ろう
なにか考えでもあるのだろうか。もしかしてメッドも犯人はラリカとわかっていて、彼女との衝突を覚悟で・・・。
それは意外とあり得る話でもあった。メッドは時々僕たちだけに、実はもうラリカとは別れたいのだが、まだ幼い子ども二人の親権を得るのが難しいので、渋々夫婦生活を続けている、という話をしていたからだ。
とりあえず、現地の住民たちには知られたくないらしく、このことは水面下で僕たちだけで動く、とも言った。
カードの悪用が怖いので、アキはすぐにでも利用を停止したかったのだが、偶然にもメッドの携帯の料金が切れていて使えない。Wifiも無いので、その家から車で20分ほど走ったところにある小さな町まで行くことになった。
気が狂っているラリカは家において、アキ、メッド、デカ男、デカ乳の4人で町へ出かけていった。
家に残された僕とリオは、完全に犯人はラリカだとわかっていたので、あとはカードをどこに隠したかを見つけ出す気でいた。身内からも不審がられている彼女が自分のバッグに隠し持っているとは、考えにくかった。他人の家にいながらもカードを隠せる場所・・・。
僕たちの部屋のどこかに違いない!
もし僕たちの荷物の中にでも入れていて、犯人に仕立て上げられたりすれば、事態は最悪の展開を迎える。
まず僕たちは、自分のバッグの中をくまなく探した。そのあとは、部屋の棚の中や上、ベッドの下、壁の隙間、梁の上・・・部屋中、隅から隅まで探した。しかしカードはどこにも見当たらなかった。
しばらくすると、アキたちが帰ってきた。とりあえずカードは止められたらしい。アキの表情が妙に明るい。
アキも気がおかしくなっちゃったのかな?と冗談交じりに思ったが、すぐに違うとわかった。
道中、メッドに色々と釘を刺されていたらしい。やはりメッドは妻ラリカを疑おうとはしなかったのだ。ただ、どちらにせよ、カードはもう使えないし、アキもある意味諦めがついた様子だった。
心配かけてごめんね!もうみんなで最後に湖行って遊んで、とにかく反抗はせず、安全にキャンディーに帰ろう!
言語も伝わらない、知り合いやツテもない、逃げようにも足がない、おまけにパスポートなど貴重品の一部は、メッドの家。
この環境下では、どうあがいても状況を悪化させることにしかならない。アキはそれを悟ったのだ。
悔しくて悔しくてたまらないが、今はおとなしくしておくしか無い。アキにそうなだめられた。
こっちはもう白旗降ってんだ。早くキャンディーへ帰してくれ。ただただそう願った。
メッドが僕たち3人を呼び出し、他の人達に見られないように、家の裏手へ回ったところでこっそり話をしようと言った。
さきほど、アキたちと町へ行ってクレジットカードの利用を停止してきたこと、やはりラリカが怪しいと睨んでいるが、証拠をつかめていないので言い出せないことなどを話だした。
しかし・・・
ちょうどその頃、さきほど僕とリオが部屋中でゴソゴソしていたのを見ていた、そこの住民とラリカが騒いでいて、そのことをメッドへ報告しにきたのだ。これによって空気が一変し、僕に疑いがかけられることになった。
もしかして、アキのカードを盗んだのは、しょうきなんじゃないの?
いやいやいや・・・。それは無いよ!アキとリオも必死で弁解してくれている。
じゃあカバンの中、見てみよう!アキ!
アキはそう言われると、もう心ここにあらずといった表情で、僕と目を合わせて合図し、僕のカバンからひとつずつ荷物を取り出した。
カードはいとも簡単に見つかった。僕のバックパックの中、服や洗面用具などを小分けにして入れている袋と袋の隙間に、それはあった。
・・・。
アキの目には涙が溢れていた。
そうか!そういうことだったのか!この瞬間、全てが繋がった。
完全にハメられた。
さっき、僕とリオが自分たちの荷物や部屋を探し回った時、カードは見つからなかった。見つかるはずがなかったんだ。なぜならその時カードは、メッドが持っていたんだから。
これは後から聞いたことだが、あの時アキは、メッドから、カードを利用停止にする為には4桁の暗証番号が必要だから教えてくれ、と言われ、言われるがまま教えてしまったそうだ。後日ネットからカードの履歴を調べると、思ったとおり、先ほど利用停止をしに行った町の銀行から、現金約20万円が引き落とされていたのだ。
奴らは最初からこれが狙いだったんだ。
言語もわからない僕たちを追い詰めて、精神的にも揺さぶりをかけて、カードから大金をすんなり引き落とす。その後、僕たち3人を家の外に呼び出したスキに、カードを僕のバックパックに忍ばせば・・・。
連日連夜のナイトサファリでは何時間も歩かせ続け体力を奪い、情緒不安定なラリカと誰かが常に言い争いをしているところをわざと見せて、精神的にも追い詰める。デカ乳は少量だが血まで流した。
よくもまぁ、こんな手の込んだことを・・・。
全ては金のタメか。スリランカの僻地で、僕たちは絶望感にさいなまれた。
ついでにパスポートも持っていない。
僕はこれからどうなる?
こいつらに袋叩きにでも遭うんだろうか・・・。
警察に突き出されれば、圧倒的に不利だ。パスポートも持っていない自称日本人が、他人のクレジットカードを盗んだ。そしてその証拠、目撃者がここには多数いた・・・いやでも、それは無いか。カードを使って20万円を引き落とした時の映像は残っているはずだし。そうなるとやはり・・・。
奴らならやりかねない、と本気で思った。なんせ演技で血を流せる連中だ。
この状況では何を言っても無駄だ。
アキはさきほど、こうなることを恐れて悟ったんだ。
とにかく反抗はせず、安全にキャンディーまで帰ろう
あの言葉の意味がやっとわかった。
ハァ、ハァ、ハァ。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。
ここ数日間のストレスにさいなまれて、僕はこのとき、生まれて初めて、過呼吸になった。
ハァ、ハァ、ハァ。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。
リオ、ハァ、ハァ、袋、ハァ、ハァ、ハァ・・・。
なんとか呼吸を落ち着かせて、涙を流しながらベッドに仰向けになった。
芝居ごっこ
僕は頭の中が真っ白で、呆然としていた。
呼吸が落ち着いてきた頃、同じく呆然としていたアキとリオも、これからどうすればいいのかわからない様子だった。
しばらく沈黙のまま時が流れたあと、メッドが部屋に入ってきてこう言った。
しょうき、ドンマイ。もういいから、みんなで湖へ行こう!
コイツ、悪魔だ・・・。
状況証拠はそろっているのに、何もできない無力さを呪った。
もうどうにでもなれ・・・。
湖へは、最初は体調が悪いので行きたくない、と言ったが、アキが、彼らを逆撫でしない方がいいから行こう、と言うので行くことにした。
現地民も含めた一同の空気が、「しょうき、ドンマイ。」という雰囲気だった。
これさえ乗り切れば、あとはキャンディーまで送り届けてもらえるはずだから、と自分に言い聞かせ、とにかく彼らの言うとおりに動いた。
「もう気にするなよ」「アキはもう、しょうきのことを許してるよ」
そんな声をかけられながら、アラックと呼ばれる、スリランカ特有の蒸留酒をどんどん勧められた。
メッド、ラリカ、デカ男、デカ乳、そして現地民のハル、松葉杖の男、アキ、リオ、そして僕。
この場にいる子どもたち以外の、全ての大人たちは真実を知っている。
けれど、メッドたちの画策が功を奏した為、「しょうきが犯人」という捻じ曲げられた事実が作り上げられ、僕を含めみんながそれを演じていた。
とにかくこれ以上なにも起こらないよう、無事にキャンディーへ送り届けてもらい、メッドの家から荷物を取り出し、すぐさま、さよならを言って別れるんだ。
そうする他に、僕たちが無事でいる方法は無かった。
湖の畔で僕は、勧められた以上にアラックを飲んだが、全く酔わなかった。
お願い、帰して。
異様な雰囲気のまま、現地民たちにお礼を言って、キャンディーへと帰ってきた。
もう辺りは真っ暗で、遅くなってしまったので、今日は3人とも家に泊まっていきなさいというメッドの提案には、即答でNOと言った。
置かせてもらっていた荷物も心配だったけれど、幸い特に荒らされた形跡は無かった。
荷物を全て持って、2階から応接間へ降りてきて、表面上お礼を言って、すぐにその場から去る予定だった。
しかし、あんなことがあった以上、メッドは自分に疑いがかかるのはごめんだからという理由で、アキに一筆書くように命じた。
最初は拒んだアキだったが、書かないと帰してくれそうになかったので、渋々書きはじめた。書く内容はメッドから指定され、アキはその通りに書くふりをして、微妙にスペルを間違って書いたりした。これが後々何に使われるかわかったもんじゃない。
僕たちが5日間のツアーへ出かけたこと、そこでスマホを盗まれたこと、クレジットカードを紛失したが、その後友人のしょうきのカバンから見つかったこと、などを書かされていて、最後にサインも求められていた。
メッドの家のWifiは、料金が支払われておらず利用できなかったことを理由に、僕たちは別の宿に移ると言っていたので、そのことも書かされた。
これが何になるのかは、わからないけれど。
書き終えると納得したのか、最後は握手をして別れた。
事件のあと
キャンディーからの大脱出!
時刻は夜の8時半。メッドに告げた別の宿に行くのは怖かったので、僕たちはそのままキャンディーを離れることにした。
バックパックもサブバッグも全部持って、バスターミナルへと向かう。
メッドの家はキャンディーの町外れの山を上ったところにあった。ここからバスターミナルまで、車で10分くらいだろうか。普通は通りがかりのタクシーに乗るのだが、このとき僕たちは3人揃って極度のネガティブ思考になっていたので、もしもあの車がメッドの追っ手だったら、また連れ戻される!と全てのタクシーの勧誘を振り切り、歩いてバスターミナルまで辿り着いたのだった。
一刻も早くキャンディーから離れたかった。
バスターミナルには、まだコロンボ行きのバスが残っていたので、それに乗り込んだ。
疲労、ストレス、空腹感、過呼吸の後遺症、大量に流し込んだアルコールが今頃効いてきて、他の乗客が寝静まったバス車内で、僕は静かに嘔吐した。
コロンボに着いた頃には、時刻はとっくに日をまたいでいた。
タクシーの運転手さんに何件も宿を当たってもらい、なんとか寝床を確保したのは午前2時。
いつもは一人行動好きな僕たちだったけれど、このときばかりは、3人1部屋で泊まれる部屋を探した。
交代でシャワーを浴びると、気分が少し楽になった気がした。
とにかく少しでも体を休め、ここ数日間で起きたことを冷静に整理し、次に何をするべきなのか、3人で会議した。
この時に、アキの口座から約20万円が引き落とされていたことが判明したのだが、そんなことは想定の範囲内だったので、改めて残念がるよりも、今は今後の対応を考えるべきだと言うアキは、とてもしっかりしている。
コロンボに来たのは、日本大使館があるためである。
明日は、大使館の開館と同時に訪問しよう。
その時に、どのように順を追ってわかりやすく説明するか、僕は頭の中でぐるぐると出来事を巡らせて、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
駆け込め!日本大使館!
3時間ほど眠れただろうか。コンディションはそれほど良くはないが、一刻も早く日本大使館へ行きたかった。
キャンディーからコロンボまでは車で2時間半。メッドたちに見つかるかもしれないという恐怖感は、まだ完全にはぬぐえていなかったからだ。
昨夜は遅い時間にも関わらず対応してくれた宿の人たちにお礼を言って、また荷物を全部抱えてチェックアウトした。
世界中、どこの国でもそうだろうけど、すごく親切な人と、そうではない人が混在している。
残念ながら今回は、すごく悪いスリランカ人と関わってしまったけれど、僕はこの国ごと嫌いにはなりたくない。ただ、キャンディーへはもう行かないと思うが。
青い空と瑠璃色の海が目の前に広がるこの街では、どんな人と出会うのだろうか・・・。
日本大使館へバックパッカーが荷物を全部抱えて訪問することは、そうあることではないのかもしれない。
担当の日本人の方は、とても親身に僕たちの話に耳を傾けてくれた。
その場で、サファリツアー現地の警察へも連絡を取ってくれたのだが、アキを対応してくれた人が、本物の警官だったかすら定かではないらしい。
ただ、ひとつだけ、覚えておいてほしい。
「君たちは何も悪いことはしていないんだろ?それなら堂々としておけばいい。」
それまで、ネガティブの渦に飲み込まれてしまいそうだった僕たちの周りに、フッと、希望の風が吹いた。
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