夏の終わり、竹富島へ – ゆったり流れる島時間を味わう旅

夏の終わり、竹富島へ – ゆったり流れる島時間を味わう旅 観光

竹富島の集落で目にした赤瓦の屋根とサンゴの石垣。色鮮やかなブーゲンビリアが南国らしい風景を彩っていた。

八重山諸島に浮かぶ竹富島は、人口数百人ほどの小さな島です。その昔からの暮らしぶりを今に伝えるかのように、島内には赤瓦の民家とサンゴの石垣が連なり、道には白い砂が敷きつめられています。私は夏の終わりにこの島を訪れました。強い日差しは残りつつもどこか落ち着いた空気が流れ、季節の移ろいを感じながらの旅となりました。観光客で賑わう日中とは対照的に、夕方から翌朝にかけては嘘のように静かで、時間がゆっくりと進む島。この穏やかな「島時間」を感じたくて、今回は竹富島に数日間滞在する計画を立てました。

竹富島へのアクセス

  • 那覇空港から石垣島へ: 飛行機で約1時間。沖縄本島の那覇空港から石垣島までは直行便が運航しており、到着後は車ですぐ港に向かえます。

  • 石垣島から竹富島へ: 石垣港離島ターミナルから高速フェリーで約10〜15分。便は日中頻繁に出ていて、思い立った時間に気軽に渡島できます。竹富島に着いたら、島内の移動は徒歩や自転車が中心。港から集落までは送迎バスもありますが、歩いてものんびり10分ほどの道のりです。

島内散策: 赤瓦集落と水牛車

竹富島名物の水牛車。ゆったりとした足取りで集落を巡る牛車に身をゆだね心地よく揺られる。

竹富島に到着してまず目に飛び込んでくるのは、昔ながらの赤瓦の屋根とサンゴの石を積み上げた石垣が美しい集落の風景です。南国の花々が咲き誇る砂道を歩いていると、まるで琉球の昔にタイムスリップしたかのような感覚に包まれました。集落をのんびり散策するなら、自転車も便利ですが、私はあえて歩いてみることに。道端にはシーサーが鎮座し、民家の庭先からはハイビスカスが顔を覗かせています。ゆるやかな坂道を上るたびに見える赤瓦越しの青い空がとても印象的でした。

そんな竹富島でぜひ体験したいのが水牛車での集落巡りです。島の名物でもある水牛車観光は、水牛ののんびりした足に揺られながら、竹富島の風景をゆっくりと堪能できる贅沢なひととき。車を引く大きな水牛の背中に南国の陽射しが反射し、きらきらと光る様子に思わず笑みがこぼれます。ガイドさんが島唄を口ずさみながらゆっくり進む水牛車は、時間の流れまでもゆったりに感じさせてくれました。砂道を歩く水牛の足音は、心地よい沖縄の情緒を肌で感じることができます。島の歴史や暮らしの話を聞きながら進む30分ほどの旅路は、観光というよりも島人の生活にそっとお邪魔したような、不思議な温かみのある体験でした。

竹富島のおすすめスポット

竹富島には、小さいながらも心に残るスポットが点在しています。私が実際に訪れて特に印象的だった場所を紹介します。

カイジ浜(星砂の白いビーチ)

竹富島のカイジ浜。透き通る海と白い砂浜が迎えてくれる。

竹富島といえば「星砂の浜」として知られるのが、このカイジ浜です。白砂のビーチにしゃがんで手のひらですくってみると、小さな星の形をした砂粒が混ざっているのに気付きました。実はこの星砂、海の中に生息する有孔虫という小さな生物の殻が砕けたものだそうです。そう聞くと少し驚きますが、星形の砂を見つけるたびに小さな宝物を探し当てたようで嬉しくなります。カイジ浜の砂はさらさらとして真っ白で、エメラルド色の海とのコントラストがとても美しく、思わず時間を忘れて見入ってしまいました。静かな砂浜で波の音を聞きながら星砂探しに興じるのも、この浜ならではの楽しみ方でしょう。

西桟橋(夕日が染める幻想の桟橋)

西桟橋の夕景。雲間から差し込んだ夕日で海面はオレンジ色に染まり、鏡のように空を映し出していた。まるでファンタジーの世界に紛れ込んだかのような光景。

一日の終わりにぜひ足を運んでほしいのが、島の西端にある西桟橋(にしさんばし)です。かつて島と本島を結ぶ物資の玄関口だったこの桟橋は、現在では夕日の名所として有名になっています。私が訪れた夏の終わりの夕暮れ時、桟橋から眺める水平線の彼方にゆっくりと太陽が沈んでいきました。驚いたのは、その日の海がまるで一滴の波もない鏡のように穏やかだったことです。オレンジ色に染まった空と雲がそのまま水面に映り込み、上下がわからなくなるような幻想的な景色に息を呑みました。桟橋には他にも数人の旅行者がいましたが、皆言葉を失い茜色のグラデーションに染まる空と海を見つめています。やがて太陽が完全に姿を消すと、辺りは蒼いマジックアワーの光に包まれ、現実とは思えない静けさと美しさがそこに残りました。竹富島の夕日は、一日の締めくくりに心に深く刻まれる感動を与えてくれるスポットです。

なごみの塔(赤瓦の集落を一望する展望台)

なごみの塔から見渡す竹富島の集落。赤瓦の屋根が規則正しく並び、遠くに石垣島の稜線が望めた。360度に広がる絶景に思わず息を呑む。

集落の中心近くに建つ小さな展望台、なごみの塔も竹富島では外せないスポットです。塔自体は高さ4~5メートルほどの素朴な石造りですが、その頂上(といっても数メートルの高さですが)から見下ろす風景は圧巻でした。竹富島の集落全体が赤瓦の屋根で統一されている様子や、碁盤の目のように巡らされた白い砂道、その周囲を取り囲む集落を一望することができます。高い建物がまったくない島なので、360度視界を遮るものがなく、まさに絶景。その風景を眺めていると、島全体がひとつの大きな家族のようにも感じられ、不思議な安心感に包まれました。暑い日中は照り返しで少し眩しいですが、朝晩の涼しい時間帯に上ると風が通って心地よいです。竹富島の原風景を心に焼き付けるには絶好のビューポイントでしょう。

真っ暗な夜に咲くドラゴンフルーツの花

真夜中に咲いたドラゴンフルーツの花。大ぶりの白い花弁が月光を受けて輝く姿は神秘そのもの。翌朝にはしぼんでしまう儚い命の花だ。

日中の陽射しが去り、竹富島の夜が訪れると、島は全く別の表情を見せます。観光客を乗せた最終の船が石垣島へと戻ってしまうと、島には宿泊者と地元の方だけが残り、静寂が訪れます。街灯の数も限られているため、一歩集落の外れに出ればあたりは真っ暗闇。私が滞在した宿の主人から「ドラゴンフルーツの花は夜に咲くんだよ」と教えてもらったのは、そんなある日の夕食後でした。昼間には硬く閉じていたサボテン科ドラゴンフルーツの蕾が、夜になると一斉に花開く——その話を聞いた私は、居ても立ってもいられず懐中電灯を手に真夜中の島へ探検に出かけました。

月明かりと星明かりだけを頼りに進む夜の散策は、昼間とは別世界のようです。木立から聞こえる虫の声、遠くでかすかに鳴くヤモリの声に耳を澄ませながら、静かな茂みの中をそっと歩きます。しばらく進むと、暗闇の中にぽっと浮かび上がる白い花を見つけました。それこそ探していたドラゴンフルーツの花です。思った以上に大ぶりで純白の花びらを夜空に向かって大きく広げていました。その姿はどこか神秘的で、暗闇に浮かぶ様子はまるで夜空に咲く星のよう。顔を近づけるとほのかに甘い香りも感じられ、一夜限りの開花を楽しもうと輝く花に、私もそっと息を詰めました。ドラゴンフルーツの花は本当に夜だけ咲き、翌朝にはしぼんでしまう“一夜花”です。暗闇の中で出会えたその儚い美しさは、この島に泊まってこそ得られた忘れられない感動のひとつとなりました。

島宿で味わう交流と音色

竹富島で過ごす夜の楽しみは、もう一つありました。それは島の民宿での心温まるひとときです。私が宿泊したのは島の小さな民宿でしたが、そこでは島ならではの家庭的なおもてなしが待っていました。島の食材を使った素朴で滋味深い夕食に舌鼓を打ち、お腹いっぱいになった頃…

宿のご主人が「よかったら一杯どうぞ」と琉球泡盛を勧めてくれました。さらりとした飲み口の泡盛でほろ酔い気分になっていると、「三線でも弾こうかね」とご主人。三線が奏でるゆったりとした島唄の調べが夜の静けさに溶け込んでいきます。私は縁側に腰かけ、満天の星空(本島よりも星が格段によく見えました!)を見上げながら、その音色に耳を傾けました。都会の喧騒から遠く離れた島の夜、縁側で三線と泡盛…。まるで昔から知っている家に帰ってきたかのような、不思議な安心感と心地よさに包まれ、旅の疲れもすっかり癒やされていきました。数日滞在している間にすっかり顔なじみになった宿のご主人や島のお婆(ばぁ)たちとのおしゃべりも楽しく、観光客として訪れただけでは知り得ない島の暮らしぶりや昔話を伺えたのも貴重な経験です。「旅先なのにどこか懐かしい」——竹富島の夜は、そんな不思議な魅力に満ちていました。

月明かりだけが頼りの夜道。街灯のない竹富島の夜は漆黒の闇に包まれるが、頭上には冴え冴えと月が輝いていた。

ゆったり過ごす旅のススメ

竹富島を訪れるなら、ぜひ日帰りではなく島に宿泊してみることをおすすめします。確かに石垣島から近く、日中に綺麗なビーチで遊んで夕方には戻れてしまう竹富島ですが、それではこの島の本当の魅力を味わい尽くすには少しもったいないように感じます。島に泊まってこそ見られる景色、感じられる雰囲気が必ずあるからです。夕方以降、観光客が去ったあとの静けさや満天の星空、夜明け前のひんやりと澄んだ空気の中で聞く小鳥の声…。そうした何気ない瞬間に、竹富島という島が持つ本来の姿が垣間見える気がします。今回私自身、数日間の滞在で昼間の観光だけでは巡り会えない体験にいくつも出会いました。時間に追われず島時間に身を委ねることで、旅人である私も島の一部になれたような気がしたのです。

最後にひとつ注意点を挙げるとすれば、旅程にはぜひ余裕を持って計画してほしいということ。竹富島で過ごすには、のんびりとした時間の流れを受け入れる心のゆとりが何より大切です。天候によっては船が欠航することもありますし、島内のお店も夕方には早じまいします。ですから、慌ただしく駆け足でまわるよりも、ぜひ数日間泊まってみてください。何もしない贅沢を味わう時間こそが、この島での最高の思い出になるはずです。あえて多くは語りませんが、日常を離れ、竹富島のゆるやかなリズムに同調することで見えてくる景色は、きっとあなたの心に深く刻まれることでしょう。

竹富島で過ごす夏の終わりのひとときは、私にとって旅の原点のような大切な記憶となりました。沖縄の原風景がそのまま残るこの小さな島で、ゆったりと流れる島時間に身を浸せば、きっと旅本来の豊かさと癒しを感じられることでしょう。あなたもぜひ、一度この竹富島で心ほどける時間を過ごしてみてはいかがですか。きっとまた訪れたくなる、そんな不思議な魅力に溢れた島でした。

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